SENSATION[サンサシヨン]

Sensation:印象・感覚・刺激・興奮 Concept:雑草魂 Keyword:20世紀ノスタルジア

葉洩れ日の道

葉洩れ日の舗道
ひと気のない朝の構内を歩く
遠くにいる人を思いながら

こんな時 宮澤賢治なら
首にさげた手帳にスケッチしただろうし
ツイン・ピークス』のカイル・マクラクランなら
カセットテープに吹き込むのだろう

今は記録用具が何もない
だから自分の頭に書き込む
「葉洩れ日を踏みながら
あなたを思っていた」 と

失くしもの

  失くしもの

長い冬の間に大切なものを失くした
どこで探したらいいかわからない
ほんとうはどこかよく知っている
だがそこへ近づくことはできない

とても寒かった冬だからと言いわけはできない
ぎゅっと抱えておけばきっと失わなかった
春というのに氷の道を踏みしめて
なかなか明けない夜を歩いている

もらったものはすべて覚えているのに
与えたものは何も思い出せない
愛おしいくせに大事にしない だから失くすのだ

雪が融ければ落とした鍵が現れる
言い伝えには言うけれど 元来た道が分からない
欠けは埋まらない いつまでも空白のまま


言葉を忘れたカナリヤ

   言葉を忘れたカナリヤ

言葉を忘れたカナリヤは
ふたたび言葉を取り戻そうと
音のない文字を並べ始めた
無為に過ごした時の刻みを啄む

けれど言葉は並んでくれないので
籠の外 木立が風で揺れるのを見
こんどは空を飛ぶことを思い出したが その時は既に
もうじき自分の寿命が尽きるのも知っていた

どこかへ

   どこかへ

歩いて歩いて その先へ
どこまでも来た
見知らぬ町 それがなじみの町となり
それでもここは 異邦の町

夜の暗闇に ふと光が差す
誰かがそこで待っている
それを頼りに どこへでも歩いた
そこで何が待つかも 知らないで

それでずっと来たとはいえ
もうどこへも行けない
帰るあてもなく 彷徨うだけ
残ったのは どこかへ行きたい気持ちだけ

けれどなお 歩こうとする
歩けなくなっても 歩くほかにない
それでずっと来たのだから それ以外にない
どこへも行かない ただ歩くだけ

雨の詩

   雨の詩

屋根裏のない部屋に住んでいた
雨が降り出すと音で分かった
降り出すと窓から雨脚をずっと見ていた
犀星の時雨の詩を実感した

街は穏やかに横たわっていた
雨は本当に脚を持っていたようだ
あの辺りから向こうの方へ
雨の幕がゆっくりと動いた

なだらかな丘が続く街は
私の身体の一部のようだった
街の造作が手足のように分かった
私の身体にぬるい雨が降る

雨の中歩くのが好きだった
靴を脱ぎ裸足で下校した
バイパスの歩道を延々と歩いた
どうせ濡れるからと裸足で歩いた

あの頃の雨はもうどこにも降らない
今も雨は好きかと問うてみる

キリコの朝

   キリコの朝

この窓から見える 樹と空と建物
建物の壁に朝日が横殴りにあたり
キリコの絵のように照らされている
朝が来た また一つ 命をつないだ

想像の中で 命の限界を知らされ
残された時間をできるだけ有効に
そう考えるのは尊いことだろう
だがそれは難しい 胸が詰まって

何も考えられず ただ滞るだけ
明日があると思うからこそ 生きられる
夜が明けて また朝が来ると信じられるなら

室内にはキリコの絵葉書
戸外にはキリコの朝が来た
また命をつなげる 朝が来た